文化の回路

VESSEL / CIRCUITS OF CULTURE
VASCELLO / CIRCUITI DELLA CULTURA


北前船は、江戸から明治にかけて日本海を往来した商船である。大阪を起点に北海道までを結び、各地の産物を売買しながら航海した。その航路は、単なる物流ではなく、技術や意匠、そして美意識を運ぶ道でもあった。寄港地ごとの文化は互いに影響し合い、新たな工芸や表現が各地で生まれていく。
村上の舟箪笥は、その象徴的な存在である。船上での使用を前提に、揺れや湿気に耐える構造、限られた空間に対応する機能が備えられている。そこには、地域の技術と海の環境が重なり合っている。
北前船は、素材や技術を運び、それらを各地で変化させ、文化として再構成させていった。海は、文化を接続する場である。

酒田船箪笥 加藤木工


Legno / Il tempo stratificato nella lacca
Wood / Time Layered in Lacquer

木と漆の工芸は、日本海側の気候と森林資源の中で育まれてきた。 漆は、木から採取される樹液であり、乾燥ではなく湿度とともにゆっくりと硬化する自然素材である。加賀・山中 では、木地師の技術と豊富な木材により、薄く均一に挽かれ た木地が生まれた。その上に漆を幾重にも塗り重ねることで、強度と深い艶が生まれる。湿潤な環境はその乾燥を 安定させ、この技法を可能にしてきた。また村上や庄内では、冷涼な 気候のもと、彫刻と塗りを組み合わせた堆朱など、重厚な表現が発展した。 木は土地に根ざし、漆は気候に育まれる。その塗り重なりが、地域ごとの質感を形づくってきた。

加賀漆芸(蒔絵) 山崎夢舟

山中漆器 工房なかじま

磯草塗 斎藤八惣八

村上木彫堆朱 藤井漆工

村上堆朱事業協同組合


Pietra / L’emergere della pietra ceramica
The Emergence of Ceramic Stone

九谷焼は、加賀の地で採れる陶石によって成立している。石を砕き、水簸し、精製することで、器の素地が生まれる。 この工程は、自然の内部構造を一度解き、再構成する行為でもある。 白く緻密な素地は、上絵付けの色彩を受け止め、九谷特有の表現を可能にする。さらに分業体制が整えられ、高度 な色絵磁器の文化が形成された。 素材と技術が重なり、この土地固有の表現が生まれている。

九谷焼 妙泉陶房

九谷焼 加賀陶房


Tessuto / Memorie intrecciate
Cloth / Memories Woven

布は、その土地の自然環境と生活の中から生まれる。羽越地方のしな布は、シナノキの樹皮から繊維を取り出し、糸にし、織り上げるまでに長い時間を要する。豪雪地帯においては、冬の手仕事として受け継がれ、集落単位で技術が守られてきた。一方、鶴岡のきびそは、製糸に使われない繭の外層を活用した素材である。 養蚕という地域産業の中から生まれ、未利用資源に新たな価値を与えている。自然と生活の中で培われた素材である。

サムライシルク / きびそ 鶴岡シルク

羽越村上しな布 山熊田工房

羽越鶴岡しな布 しな織創芸石田