私が選ぶものが、いつか世界を変えるなら。リサイクルプロダクトで陶器ごみ問題に解決の道を示す、 the continue.の挑戦
2021年03月12日 インタビュー記事
岡山県備前市。赤褐色の美しい陶器、備前焼のふるさと。
この町では年間約1割の備前焼が廃棄されています。
この土地でしか取れない良質な土を使い、釉薬は使わず、登り窯で2週間かけて焼きしめる。
長い歴史のなかで先人たちに守りぬかれ、ほとんど製法を変えることなく続いてきたこの焼き物は、土や窯の扱いが難しく、作品の完成までには高い技術と経験値が求められます。
それゆえに廃棄品も多く出てしまう。
しかしこれは備前に限った話ではありません。
家庭や制作過程、流通過程などで出る陶器ごみは、埋め立てる以外に処理方法がなく、リサイクル分野では手付かずの領域でした。
そんな陶器の世界が抱える問題を知り、なにかできないかと考えていた2人が偶然出会ったことで立ち上がった会社the continue.手がけるのはRI-COという名のプロジェクト。
備前焼をほぼ100%再生可能にし、その特徴を活かしたRI-COドリップとRI-COマグという2つの商品を開発しました。
今回はthe continue.を立ち上げた2人、脇山賢一と牧沙緒里の話をお届けします。
違う業界で、同じ悩みを抱えていた2人が出会った
RI-COというプロジェクトができた経緯を教えてください。
牧:私たちは岡山県内でそれぞれ全く別の動きをしていて、途中偶然出会ったことで「じゃあ一緒にやりましょう」というかたちになったんです。
脇山:まず僕は外から岡山にやってきた人間で。コーヒーと暮らしに関わる商品開発や流通まわりの仕事をやっています。
備前焼を知ったのは、岡山に住むようになってからなんですが、備前焼のプロダクトとしての機能面や作り手さんの思いにどんどん惹かれていきました。
ところが、ひとつだけ気になっていることがあって。
それは、作家さんたちが完成した陶器をどんどん割っている光景。
水漏れしちゃうから、とか、少し欠けてるからという理由で割られた陶器は敷地内の裏山に放置されたり、陶器ゴミとして捨てられている。
でも一方で原料である土が不足しているという問題も深刻だった。
この不一致がずっと気になっていたんです。でもこれはしょうがないことなのかな……とやり過ごそうとしていたときに牧さんと出会いました。
牧さん、「備前焼、再生できたんですけど」って言うんですよ!
もうびっくりして。
ただ「再生はできたものの、透過してしまう性質があるから、これを活かしてドリッパーにできませんか?」という相談だったんです。
そんなの絶対面白いじゃないですか。
「それ、一緒にやりましょう!」ということでthe continue.を設立しました。
煉瓦はリサイクルされる。なのに備前焼は……
牧さんの方はどうですか?
牧:私は煉瓦の会社で働いているんです。
備前は備前焼以外にも煉瓦の産地として有名なんですが、工場で廃棄になってしまう煉瓦はリサイクルして原料をほぼ100%使い切っているんですよ。それを知ったとき驚いたし、すごく誇らしかったんです。
だけど、同じ備前でも備前焼では全体の1割もの作品が廃棄されていると知ってすごくショックを受けました。
なのに誰もそれをどうにかしようとは思っていなかった。
そこで声をかけたんです「リサイクルしてみましょう」って。でも「コストもかかるし、難しいよ」と言われてしまいました。
仕方ないから廃棄された備前焼を会社に持ち帰って自分でリサイクルしてみたんです。そしたら、意外とできてしまった(笑)。
でも問題がひとつあって。脇山さんが言ったように、水がすごく漏れる素材だったんです。
だから、水を漏れなくさせるための研究は続けつつ、もうひとつ水が漏れるからこそ活かせる道も考えようと思いました。
植木鉢とか浄水器とか、いろいろ考えましたよ。
でも結局ドリッパーにしたのは、コーヒーはどんな環境の人たちにも広く愛されているものだからです。
それに日々の暮らしのなかで手にとるものの方が、この商品の背景に思いを馳せてもらうきっかけをつくりやすいんじゃないかとも思いました。
それでコーヒーの専門家である脇山さんに相談したんですね。同じことに疑問を感じていた2人が出会って会社を立ち上げるなんて、奇跡みたいですね。
脇山:煉瓦業界とコーヒー業界ではあまりに産業が違うし、僕たちそれぞれ県内に知り合いは多いけど共通の知人って一人もいないから、本当に奇跡のようです。
プロジェクトの背景には、最終処分場を圧迫する「陶器ごみ」の存在
陶器ごみの認知度はどれくらいあるんでしょうか?
脇山:ほとんど認知されていないと思います。
牧:そもそも陶器が土に還らないってこと知らないのかも。
土からできた陶器は土に還らないんですか?
牧:土には微生物などの有機物が含まれているんですが、それを高温で焼くと石に近い素材になってしまうんです。
石を細かく砕いていっても砂のようになるだけで、簡単には、栄養分のある土に戻らない。分解されないんですよ。
脇山:大昔の土偶も土に還らずそのまま残ってるでしょ。
確かに!RI-COと出会うまでは「陶器ごみ」についてほとんど考えたことなかったです。
牧:そうですよね。
でも、日本の最終処分場(埋め立て地)の余力があと20年あるかないかという状況で、陶器やガラス、コンクリートなどのごみは最終処分量の18%をも占めるとも言われているんです。
すごい量……。日本全体が抱える社会問題でもありつつ、備前においては原料不足の問題にも関係してきますね。
脇山:これまでは関係者の方であっても「そういうものだから」と思考停止してしまっていたんです。
そこに風穴を開けつつ、作家さんたちの気持ちも少し楽にできるようなプロジェクトになればと思っています。
作家さんたちだって、失敗作をつくりたくてつくっているわけじゃないんだから。
備前焼作家の伊勢崎創さんにお話を伺ったときも、やはり悲しさはあると話してくれました。陶器ごみは、見て見ぬ振りできない段階にきている問題なんですね。
備前の土の力に助けられた商品開発
商品について詳しくお聞きしたいです。ずばりなのですが、備前焼のドリッパーやカップでコーヒーを飲むと、より美味しくなるんですか?
脇山:備前焼はコーヒーのえぐみを出さず、まろやかさと酸味が引き立つ味わいにしてくれる作用があります。これは味覚センサーによる試験をして実際に数字として出た結果です。
RI-COの商品を単なるアイディアグッズにしたくなかったので、エビデンスを提示できるようにという点はこだわりました。
備前の土の力が商品の魅力を底上げしてくれているんですね。
牧:備前の素材に助けられたのはそれだけじゃないんです。
そもそも備前焼に使われる土は収縮率が高くて、焼き物用の土としては不安定なんですよ。
でも、そのおかげでリサイクル材を入れても分離せずに一緒に縮めてくれる作用が生まれたんです。
備前の土の扱いにくさは伊勢崎さんからも伺いました。先人の陶工たちは不安定な土と向き合うことで、窯変という新たな価値を生み出してきましたが、RI-COの開発秘話にも似たような精神を感じます。
牧:そう言ってもらえると嬉しいです。
ドリッパーの既成概念を打ち破るRI-COドリップ
水が漏れるという性質については脇山さんはどう捉えましたか?
脇山:めちゃくちゃ面白いと思いました。
本来ドリッパーって、コーヒーが落ちていく下の部分に空洞や穴がありますよね。
だけどRI-COドリップは目に見える穴はひとつも開いていません。
なのに、お湯を注ぐと下からちゃんとコーヒーが抽出されていく。「備前焼素材の中を通って」出てくるコーヒーなんて、今まで聞いたことないですよ!
実演していただいたときは、何が起こってるんだろう?と思いました。ドリッパーの概念を変えるような商品と言っても良いのでしょうか?
脇山:そう思いますね。基本的な常識とされていることを何一つ踏襲していないので(笑)。
ドリッパー68%、マグカップ30%に再生素材を使用して使い切る
RI-COドリップに再生素材は何%使われているんですか?
牧:68%です。残りの約30%はカップに使っています。
RI-COドリップとRI-COマグはどちらも無骨な見た目がかっこいいですが、微妙に質感が違いますね。これはなぜですか?
牧:この商品をつくるとき、ツルツルに見た目を整えるのではなく、リサイクル材の手触りを活かしたものをつくろうと決めていました。
RI-COドリップの方がクラフト感が強いと思いますが、これは再生素材を砕いたときに出る欠片のうち大きい粒だけを選んで使用しているからです。物って砕いたら大きい粒と小さい粒が出ますよね。
すると、残りの小さい粒はどうしようか?という問題が出てくる。
これを捨ててしまってはリサイクルをやっている人間としてどうなの?って感じですよね。
そこでRI-COマグを開発したんです。
コーヒーといえばやっぱりカップがいるよねってことで。
工夫して使うことで、自然な形で素材をすべて使い切るいうことになります。
マグが開発できたということは、水が漏れないリサイクル素材の開発にも成功したということですね?
牧:その通りです!
RI-COのプロダクトが無骨な見た目でなければいけなかった理由
リサイクル材の手触りを活かした見た目にこだわったとのことですが、それはなぜですか?
牧:無骨な見た目、ということは余計な混ぜ物をしていないということです。
たとえば新品ぽいものを目指して釉薬をかけてしまったりするとその後の再生が難しくなる。限りなくシンプルな素材だけでつくることにこだわった結果です。
工程のなかで、リサイクル素材の粘りを出す必要が出てきたときにも備前の土を利用することで、素材としての純度を落とさないようにしました。
RI-CO自体が割れてしまった場合もリサイクルすることが可能ということですか?
牧:RI-COを使うなかで、割れたり欠けたりすることはもちろん、手放したくなるときもあると思う。
そういうときに、商品を返していただけたらまた100%再生しますよ、ということがお約束できるようにしたかったんです。そうじゃないと、持続可能にならないですからね。
「売ったら終わり」のビジネスはやめようって最初から決めていました。
脇山:ここに返してくれる限りはずっと循環しつづけます。
安心して手放すことができますね。
牧:本当はね、純度を落とさずにツルツルの見た目にすることも不可能ではないんです。
でも、クレームが来ないようなものをつくろうとすると、かえって飽きられることが多いんじゃないかと思っているところがあって。
それじゃあ本末転倒だから、「廃棄品を減らしたい」という私たちのメッセージが伝わるようなデザインは必要だと思っています。
なるほど。そもそもこのデザイン、とても良いですよね。和室にも洋室にも似合うから、幅広い人たちの暮らしに寄り添えそうです。
脇山:やった(笑)! 嬉しいです。リサイクルというジャンルのデザインが欲しいねっていつも2人で話してるんですよ。スニーカーだとNIKEさんとかでもリサイクルっぽい質感の商品が登場してますしね。
「陶器ゴミといえば the continue.でありRI-COだよね」
ドリッパーやマグを買うときにRI-COを選択する。
それ自体は小さなことかもしれないけど、毎日使うものだし、生活のなかで必ず目に入るプロダクトです。
そこから地球環境や陶器ごみのことを少しずつでも知っていってもらいたいですね。
牧:プライベートな時間。
家でゆっくり過ごしているときなんかに、RI-COの商品を使いながら、ふと「地球環境ってどうなんだろう……」って考えてほしいです。
脇山:そうそう。自分で使うのもいいし、プレゼントに使ってもらうのも良いかなと思いますよ。
一見ちょっと変わった手触りのドリッパーやカップってだけだけど、実はその背景にはこんなストーリーがあって……というところから知ってもらえたら嬉しいですよね。
そうやってゆるやかにリサイクル陶器というものが世の中に浸透していけばいいなと思っています。
今後、the continue.としてはどのような展望がありますか?
脇山:最終的なゴールは、地球上から陶器ごみをなくすことです。
そこに向けてまず足元の備前からプロジェクトをスタートするわけですが、今後は波佐見焼や美濃焼など他の産地が抱えている問題にも向き合っていく予定です。
「陶器ごみといえば the continue.でありRI-COだよね」と言ってもらえる位置を取っていきたいですね。
「一杯のコーヒー」から、世界を変えていくと。
脇山:そうです。
コーヒーでサステナブルというと、From Seed to Cup(コーヒー豆の栽培から私たちが実際にコーヒーを飲むまでの間、自然環境や労働体制、品質管理に一貫した持続可能性が配慮されるべきであるという考え方)がよく取り上げられます。
でも、僕たちの取り組みはさらにその先の循環に挑戦するものです。
陶器業界の流れを変えながらも、コーヒーの世界にも変化をもたらすことができるかもしれない。そう思うとすごく楽しみですね。